眠れぬ夜は君のせい
違うのかとでも言うように、あげはが俺に視線を向けた。

「俺はそんなことを言った覚えはない。

名前を呼んだらやめるなんて、誰が言ったんだ?」

何も言えないと言うように、あげはは俺から目をそらした。

「あげは」

あげはの名前をささやいたのと同時に、彼女と唇を重ねた。

舌先に感じたのは、鉄の味だった。

その鉄の味をぬぐうように、舌であげはの口の中をなでた。

「――んっ、ふうっ…」

苦しそうに声をあげたあげはに、俺は重ねていた唇を離した。

離したとたん、互いの唇に銀色の糸がやらしくひいた。
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