ありのまま、愛すること。
経理の会社で営業をする─。

それは、社長を目指す私にとって、一石二鳥のことです。

働きながら勉強して、経理を完全にマスターできる。

営業職は、実戦での営業力をつけることができるうえに、売り物である「経理」のシステムを完全に網羅していなければ、売り込めませんからね。

営業の外回りの合間に、一生懸命、シャカリキになって勉強しました。

その会社にいたのは、わずか半年間のことです。

強気な新入社員もいたものですが、私は入社する際に、

「目標のレベルまで勉強ができたと思ったら、辞めさせていただくつもりです」

と生意気なことを言っていました。

ふつう、ぜんぜん連絡もしないでいきなり4月1日に現れて、そんなことをのたまったら、雇ってくれないと思うでしょう。

それでも雇ってくれたので、思い切り仕事をして、思い切り勉強するぞという意気込みにもつながりました。

1年はかかるかなと見通しを立てていましたが、半年経つころには、

「もうここでは当初の目標レベルの勉強と経験ができた」

と思える私がいました。

それで、半年で予定通りに、「辞めます」と伝えたのです。

支社長から、ずいぶん慰留してもらいました。

「君なら、あと数年もすれば支社長になれる。慌てて独立して社長になるよりも、ウチで支社長を経験してからでも遅くないじゃないか、支社長になれば、大きな舞台での経験は確実にできるし、そのほうが、後々の失敗も少ないぞ」

それだけのことを言ってもらっているのに、私の心は動きません。

「お気持ちはとても嬉しく思います。でも、私は社長になるんです」

新卒が、半年で辞める。

そんな私を、支局の50人ほどいる社員の方が、ほとんど全員で気持ちよく、送別会で送り出してくれたんです。

そのときは、胸が詰まる思いでした。

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