ありのまま、愛すること。
父は頭がよく、高校入学では特待生扱いでしたが、卒業後は進学という選択肢はなく、働くしかなかった。

父がよく言っていたのは、

「渡邉家は俺から始まるんだ」

ということ。

複雑な思いがそこにはあったのだと私は思います。

父は養父母にあたる渡邉家に育てられ、その養父母は戦後すぐに亡くなりました。

それゆえ父は、

「俺には親はいない」

が口癖でした。

縁が途絶えていた実母の存在でしたが、あるとき「とある旅館の従業員をしている」ということが判明しました。

「自分を捨てた母のことなんて、関係ない」

と父は許さなかったのですが、その母を憐れみ、引き取ったのが、私の母。

だから祖母は、死ぬまで母に感謝していました。
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