ありのまま、愛すること。
毎日のように辞表を書いて、ポケットに忍ばせていました。

辞める理由はいくらでもこじつけられるんです。

「24歳の4月1日に社長になる」

というのは、自分のなかで決めた設定。

それを、

「25歳の4月1日に─」

と書き換えればいいだけのことですから。

それなら、25万円の貯金を15万円に減らせばいいだけのことで、その分は休めます。

実際、逃げ出したかった。

何度、「負けちゃえ」と思ったことか。

でも、自分の気持ちに嘘をついてしまったら、人間は終わりです。

一度でもなにかを途中で投げ出してしまったら、逃げ癖ができるんです。

私を踏み止まらせたのは、絶対に逃げないという意地だけでした。

ここで逃げたら、経営者として成功できるはずがないんだと。

こんなことで負けていたら、将来の野望に勝てるか─。

そんな意地だけでした。

佐川急便に決めたのは、いちばん辛そうだったからなんです。

どうしても、自分の汗と引き換えに、300万円は貯めなければいけないと、そう思い込んだら、私はそれしか道が見えなくなった。

その後、経営者になってからも、幾度も逆風が吹くことはありましたが、

「あのときの辛さに比べればなんてことない」

と思うと救われました。

人間は、能力のギリギリのところを経験していると、強いんですよね。

それが私にとっての、佐川急便での1年でした。



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