ありのまま、愛すること。
社長は、

「確信犯の産業スパイそのものじゃないか」

と、大層お怒りになった。

そして、「一度とにかくその友だちと挨拶に来なさい」ということになり、私は社長のもとをうかがったんです。

会長室で対面した石井社長に当時抱いた印象は、「ライオンか熊みたいな人」でした。

髭だらけで、北海道の野武士という感じですかね。

その社長が、私の言い分を聞いたうえで、

「よし、お前たちの友情に、チャンスをやろうじゃないか」

とおっしゃった。

私は一瞬、ポカンと口を開けていたんだと思います。

「渡邉君と言ったね、君が考えているような店だったら、半年も経たないうちにつぶれてしまうよ。せっかく運送会社で汗水たらして起業資金を貯めたのに、半年で逆戻りでは悲しいだろう」

そして、こうつづけたんです。

「よし、直営店で、あまり儲かっているとは言えないんだが、月30万ほどの利益は出している店舗がある。その店を君が買いなさい。心配しないでいい。融資先も紹介してあげるから……」

これは寝耳に水でした。

社長を説得して、それでも彼を奪い取れないのなら、刺し違えるぞというくらいの覚悟を決めて対峙したら、初対面の社長に「5000万の融資先を紹介する」と言われたんですから。

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