ありのまま、愛すること。
まだ私がワタミフードサービスの社長をしていたとき、こんなこともありました。

大手ファミリー・レストランチェーンで16年間、和食部門の責任者をされている方が退任されることになりました。私はその話を人伝いに聞き、「ぜひ和民の商品顧問になっていただきたい」とお願いをしました。そのときのことです。

「ワタミさんは今、外食産業のなかでいちばん勢いがあります。私の会社もそうでしたが、勢いのあるとき、そのなかで働いている人はなかなか人の意見を聞かないものです。私がお手伝いするからには結果が出ないと申し訳ありません。しかし、結果を出すためには、商品部の方々の力が必要です。100店舗を超えて、少し落ち目になったときが私の出番なのではないですか」

その方がおっしゃいました。

私は、

「落ち目になってからでは遅いから頼んでいるのです。お願いします」

と、頭を下げていましたが、その横で、同席している自分の会社の商品部長が、ソッポを向いていました。

結局この日は顧問就任の返事をもらえず、その方が帰られたあと、私は恥ずかしさゆえ、本気でその部長を叱りました。

「『勢いのあるとき、人の意見を聞かないものです』と言われたとき、どうして『そんなことはありません』と言えないのか。『商品部の方々の力が必要』と言われたとき、どうしてソッポを向いているのか。君はもう誰からも教わるものがない、日本で1番の商品部長になったとでも思っているのか」

このときばかりは、叱っていて悲しくなってきました。

お恥ずかしい話です。

素直さを失ったとき、人も会社も成長が止まります。

現状に満足して、素直に学ぶ姿勢を失ったとき、成長は確実にストップします。

ですから、日々の立ち居振る舞いが大切なのです。どんなに立派なことを言い、立派なことをしようが、煙草を投げ捨てる人を私は決して信用しません。日常の何気ない、言動のなかにこそ、その人のすべてが表れるのです。

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