ありのまま、愛すること。
『命の小さな声を聴け』

 ─灰谷健次郎氏と水上勉氏の書簡の交換からなる本を読んだ。

灰谷氏の昔の教え子に、脳性マヒで200メートルを40分かかって歩く少女がいたとのこと。

灰谷氏はその教え子に関し、「あんな子、生きとって何の楽しみがあるんやろ」と、そんな言葉を聞く。

16年後、灰谷氏は読売新聞紙上にてその少女と再会することとなる。

それは、母校で教育実習に取り組んでいる彼女の写真だった。

彼女は言う。

「ただやりたいこと、好きなことをさせてもらっている充実感がありました。ハンディのある者が一人の人間として、社会の中で自立していくには、本人の工夫もさることながら、周囲の人たちの固定観念を緩める寛容さと助けがどうしても必要です。ハンディのある者が生きにくい社会は、ハンディのない者にとっても生きにくいものだと思います」

灰谷氏は言う。

「お礼を言いたい。あなたと共に過ごした時間はほんのわずかだったけれど、あなたに励まされ、勇気づけられたこと。あなたから学んだことは永遠にわがものとして生き続けたと……。(再会して)内なる可能性を、ひたすら生きるということによって、それを探り出してきた人間のすがすがしさに、心打たれた」と。

私は涙が出るほどうれしかった。「希望は人間のなかにある」。

私はそれを確信した。

何もかもに感謝。この本を電車の中で読んでいた。

涙が流れて、流れて困る。

人の心の優しさと強さと温かさ、そんなものがドーンとぶつかってきたような気がした。

格好悪いので窓のほうへ体を向けて読みつづけた。


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