ありのまま、愛すること。
しかし、この嘘やごまかしがあると、ものごとは長つづきしません。

気づかぬうちに被害者の意識を持つようになるのです。

これに対しお客さまは敏感で、「ああ、この人は無理しているな」と思うようになり、次第に受け取る接客を重く感じるようになる。

一方、お店で働いているスタッフのほうも、「こんなに尽くしてあげているのに」という、まさに被害者意識が顔を出すようになるのです。

私は、自分が嬉しいこと、楽しいこと、笑顔でいられること、つまり、自分たちが幸福だと思うことだけをやってきました。

ここには、「やってあげている」の思いは千のうち一もありません。「やらせてもらっている」。本当にそう思っているのです。

人は、「ありがとうを集める」ために生まれてきたのだと、私は信じています。

そして、その「プロセスのなかで人間性を高めるために生まれてきた」のだと、信じているのです。

先日、介護施設を訪れたとき、夕食のあとで、あるご入居者様を部屋までお送りしようと車椅子を押していると、走馬灯のように、二つの思い出が私の頭をよぎりました。

その一つは、末期ガンの祖母、糸おばあちゃんと一緒に行った、熱海の金城館への1泊旅行。もう歩くことすらままならなかった祖母を車椅子に乗せ、私が押して歩いたこと。

そして、父とのこと。亡くなったのは2001年でしたが、その年の春、実家の前を流れる川に沿って咲く桜を見せたくて、父の乗る車椅子を押しました。

七分咲きの桜の下で「きれいだぁ」と喜んだ父は、最後まで私の腰のことを心配してくれていました。

祖母と父との車椅子を押したとき、本当に幸せでした。

ホームのご入居者様への手紙に、必ず書く言葉があります。

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