ありのまま、愛すること。
ところで、母は私を「美樹さん」とさんづけで呼んでくれていたのですが、なぜそうだったのかはわかりません。

父は私を「美樹」と呼び捨てていたから、父母のあいだで「さん」づけを決めたわけではないようです。

そんな優しい母が、たった一度だけ私を怒ったことがあります。

何歳のころだったろう、恐らくは7、8歳だろうか、買ってきてくれたパジャマを、母が笑顔で私に与えてくれました。

でも、女の子が着るような花柄のものだったから、私は、

「こんなの嫌だ」

と言って着ようとしなかった。

母は、

「そんなこと言わないで着なさい」

と言ったのですが、私は取り合わず、あろうことか、母の目の前で、はさみでジョキジョキとそのパジャマを切り刻んでしまいました。

そのときばかりは、母は怒った。

「一生懸命、あなたのことを思って選んだのよ、人を傷つけるのもいい加減にしなさい」

見れば、母は大粒の涙を浮かべていました。私は今も、その涙を忘れることができないでいます。

気に入らぬからと何もはさみで切らずともよかったものを。

母をただの一度でも傷つけてしまったことが、今でも悔やまれてなりません。
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