午睡は香を纏いて
「ん? ああ、はい」


机をぐるりと回って、カインの前に立つ。
椅子に座ったままのカインは手を伸ばし、あたしの頬に指先で軽く触れた。
頬から顎、喉もとへゆっくり撫で降りていく。
指先が鎖骨の窪みに達したころ、目を閉じ、ぶつぶつと呪文のようなものを呟き始めた。
それは子守唄のような緩やかなメロディで、耳ざわりがいい。
これ、何だか好きなんだよなあ、とカインの声に耳を傾けた。
しかし、この声の意味していることは、分からない。
対珠の力があるというのに、この呪文はどれも聞き取れないのだ。

カイン曰く、呪文は神属語というもので構成されているらしく、これを体得できるのは神殿に仕える人の中でもごく一部の者のみ、という難しいものなのだそうだ。

対珠があるからといって、簡単に理解できるものでもないらしい。

あたしは英語が大の苦手だったから、それと似たようなものかな? と思ったけど、口にはしていない。
それを言うと、


『大多数が使用可能な言語すら理解できないのか』


なんて言われるのがオチだ。




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