午睡は香を纏いて
「あ、待たせちゃったよね。ごめん、じゃあ行こうか」


立ち上がりかけて、ふらついた。セルファが慌てて手を貸してくれる。


「急がなくていいって。まだ時間はたっぷりあるし。ほら、座って」

「あ、ありがと」


セルファの手を借りて、木の幹にもたれるようにして座り込んだ。

朝日が差し込むまでにまだ時間がある、そんな早朝にオルガを出た。
今もまだ木々の葉には朝露が残り、空を見上げれば月が名残惜しそうに淡い光を放っている。

転送後、へにゃへにゃと倒れこんだあたしに「想定内だ」とカインは言ったけど、こうなることを見越していたのだろうか。


「ここから正門までたいした距離じゃない。慌てることはないよ」

「そうなの? あ、セルファはブランカに詳しいんだよね。どんなとこ?」

ブランカにはレジィとカインと行くのかと漠然と思っていたのだけれど、カインの部屋に行ってみれば、セルファが待っていた。

セルファは長くブランカに住んでいて、神殿に籠もりっきりだったカインよりもよほどブランカに詳しいのだという。

それに加え、ブランカで名を馳せた、凄腕の仕立て職人だったそうで、裕福な商人の娘から歌姫、貴族のお姫様まで、
セルファのドレスをこぞって欲しがったのだとか。

< 179 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop