午睡は香を纏いて
「っと、話逸らしちゃったね。
とにかく、リアムが最初に足を踏み入れた土地が、ブランカなんだ。
そして渡ってきた航路がそのまま貿易路になってる。
まあ、化け物なんていない、安全な海路なんだけどねー」


セルファのあんな厳しい顔、初めて見た。憎しみに溢れた顔だった。
いつもの顔つきに戻って、皮袋に口をつける横顔を窺った。

確か、妹さんを神武団に殺されたんだったよね。
神殿を憎んでいるんだろうな。



「……カサネ。具合はどうだ?」


ふいに低い声がして、木陰からカインが姿を現した。


「あ、もう平気。ごめんね、時間とらせて」

「いや、構わない。じゃあブランカに向かうとしよう。
セルファ、用意はいいか?」

「ああ、いいよ。『ユーマ』も、分かってるよね?」


二人の視線があたしに向けられて、頷いて答えた。
あたしはこれから、仕立て屋セルファの弟子、『ユーマ』という男の子になるのだ。
リレトに姿を見られてしまったとは言え、少しでも人の目を欺いたほうがいい、というカインの考えからだ。

それに、女にしてはあたしは髪が短すぎるので、そうする他に良策はないようだ。
まあ、男のフリをしても違和感はないようだし(結構悲しいのだけど)、
パンツ姿はスカートよりも動きやすいので、文句はない。

ちなみにカインは『ユーマ』の兄弟子という設定で、名前は『ゼフ』だ。
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