午睡は香を纏いて
ヤバかった。うっかり本名口にするところだった。
セルファにごめん、と目で謝る。
って、そういえば、酒? ようやく落ち着いて辺りを見渡せば、そこは『酒場』というような雰囲気のところだった。

古びた椅子にテーブルが並び、奥にはカウンターらしきものがある。
その向こうには大きな樽や壜。そして、何よりも店内に染み付いたお酒の香り。


「ここはね、一階は酒場、二階は宿になってるんだ。今日はここに泊まる。ちなみにあの人はここの主のマダム・シルヴェーヌ。多少問題はあるけど、いい人だよ」

「はあ。あ、先生はシルヴェーヌさんと知り合いなんですか?」

「まあね。一時期はここで生活していたし」


セルファが上を指差した。その指をそのままカウンターのほうへ向けた。


「ほら、向こうの奥に階段が見えるだろ。あそこから二階へ行くんだ。
何部屋あったかは、憶えてないな。4、いや5だったかな? ちょっと汚いけど、料理はまあまあだから安心して」

「汚いは余計だね、セルファ」


トレイに木杯を載せて、シルヴェーヌさんが戻ってきた。
はいよ、と手渡されたものを有り難く頂いた。
何しろ、ブランカに入る前にセルファから水を貰って以来だったのだ。
レモン水のような爽やかな味のそれを、一息に飲み干した。


「はあ、美味しい」

「そうかい、そりゃよかった。そっちの眼帯の兄さんも、いい加減こっちに来な。
今はもう大丈夫だからさ」


入り口で外の様子を見ているカインにシルヴェーヌさんが声をかける。


「大丈夫、とは?」

「昼間は一回、って決まってるのさ。次は夕刻。だから大丈夫、奴等は来ないよ」


その言葉にカインが眉根を寄せた。ちらりと外に視線を戻したものの、ため息をついてそこを離れる。
セルファが押しやった椅子にどすんと座った。
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