午睡は香を纏いて
コンコン、とドアをノックする音がした。
ベッドにうつ伏せていたあたしは、返事もできないままでいた。

今は、誰とも会話をしたくなかった。
いや、口を開けば吐いてしまうような気がした。


「失礼します。食事をお持ち致しました」


隣の部屋で、シルさんの声がした。


「こちらに置いておいてもよろしいですか? ええと、ユーマさま?」


ああ、そういえば二人とも出かけたんだっけ。
あたしに話を終えたあと、カインはこの辺りにいる窺見に、セルファは昔馴染みに会いに行くと言って、出かけてしまったのだ。

「ユーマは絶対にこの部屋から出るな」と二人してキツく念押しして。
言われなくても、出て行く勇気なんてないのに。


「あの、具合でも悪いですか? 薬をお持ちしますか」


返事をしないあたしを心配してくれているのだろうか、遠慮がちにドアをノックする音がした。


「あ……いえ、平気です」


こちらの気分で、仕事中のシルさんを無視するのも申し訳ない。
嗚咽をこらえながら返事をした。


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