午睡は香を纏いて
 つい、とセルファがあたしに視線を向けた。


『みんな生きることに疲れてる。でも、死ねない。カインの言う通り、ここは餌場なんだよ』


その眼差しは冷たくて、背中がぞくりとした。


『餌場……だなんて。ただ殺されるのを待つなんて、そんなの』


そんなの、ないよ。俯いて唇を噛んだ。


『……ごめん。言い方がキツかった』


少しの沈黙のあと、セルファがぽつんと言葉を落とした。


『悪かった。ここに来て少し感情的になったみたいだ』


顔をあげるとセルファと目が合って、申し訳なさそうに笑われた。
その笑みはいつもと全く違って悲しげで、慌てて首を振ってみせた。


『う、ううん! そんなこと』


こんな話、感情的になっても仕方ないと思う。それに、考えなしに逃げたらなんて言ったあたしも悪いんだ。


『あ! 命珠維持のためってことは、リレトは毎日ここに来るの?』


ふと気付いた。日に二人ということは、二回、来るってことになるよね?
てことは、さっきは近くにいたんだろうか。
会わなくて本当によかった。
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