午睡は香を纏いて
『いや、リレトはこんなところにわざわざ来ないさ』


あっさりと否定したカインが、一つの指輪を取り出した。
鈍い色をした、紋様が彫られた大振りのものだ。


『これさえあれば、リレトは神殿から出なくても命珠の維持ができる』

『これ、が……?』


顔を近づけてまじまじと見る。中央に窪みと立て爪がある。石か何かが嵌まっていたのだろうか。
どことなく気味の悪さを感じる、趣味の悪いデザインだ。


『魂喰い(たまくい)と呼ばれる、現在神武団員が所持しているものだ。
本来は中央に術式を彫った石が入るんだが、この指輪に触れられると、命を喰われる』

『え!?』


指輪を手にしているカインから、思わず身を引いた。


『大丈夫だ、これを触っても害はない。最も重要な石を取り除いているからな。
巫力を持つもの、神武団員などがこれに力を込めて人に触れると、命を刈り取られる。
搾取された命はリレトの命珠に還元される仕組みだ。
自ら動かなくても命の摂取ができるってわけだ。上手いことを考えたもんだよな』


皮肉に笑い、指輪を握り締めた。
甲に青白い血管が浮かび、カインが強く握り締めているのが分かった。


『命を無理やり喰うんだから、当たり前だが苦しい。目の前で見たという窺見の報告によれば、地獄絵図だった、と。
さっきの声、覚えてるか? あれは命珠に喰われた人間の断末魔の悲鳴だ』


足が震えた。自分がどうやって立っているのか、わからなくなる。
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