午睡は香を纏いて
あの時聞いたのは、人が殺される声だったんだ。
耳元で甦る声。
あんな悲鳴をあげるほどの苦しみなんて、想像したくもない。

だけど、その命は、あたしの深いところにいるモノが食べたのだ。
いくらなにも感じないといっても、あたしの中に確実にいるモノが。


『カイン。ストップだ。カサネの顔色がヤバい』


いつの間に傍に来ていたのか、セルファが肩を抱いた。
立ち尽くしていたあたしをベッドに座らせる。


『ほら、水。ついでにルドゥイを口に入れろ』


言われるままに水を含んだ。さっき飲んだときは美味しかったのに、不思議と味がしない。
のたのたと干しフルーツの袋を開けようとしていると、セルファが取って、開けてくれた。口に乱暴に突っ込まれる。

おかしいな、まるで砂を噛んでいるみたいだ。


『すまない。見たままを後で説明したほうが受け入れやすいかと思ったんだが、先に教えておくべきだったか』


指輪を仕舞いながら、カインが頭を下げた。
言葉が出てこず、首を横に振った。

教えてもらわずにいて、よかったんだ。
そんな話を聞いていたら、恐怖でここまで来られなかったかもしれない。
来れたとしても、いつ人が殺されるのかと始終怯えていただろう。
もしかしたら、足が竦んで腰が抜けて、二人の足手まといになったかもしれない。


『それで、これからのことなんだが。こっちにいる奴らに直に確認したいことが幾つかある。俺はこれからそいつらに会ってこようと思うんだが、留守を任せていいか』

『あ、オレも馴染みの奴が気になるから出かける。カサネ、いいかな?』
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