午睡は香を纏いて
ぼんやりとしていると、ふつりと室内から灯りが消えた。
急に真っ暗になったことに驚いて周囲を探る。

ランプの油が切れたのだろうか。


「えーと、あ」


廊下へのドアの隙間から灯りが洩れている。
とりあえず部屋を出て、油を分けてもらいに行こう。
僅かな灯りを頼りに、そろそろと部屋を出た。
部屋を出ると、階下の酒場のざわめきが大きく聞こえた。
 
……笑い声、してる。

こんな状況なのに、笑ってお酒が飲めるって、どれだけ図太い人たちなんだろう。
あたしなんか、半日ここにいただけで笑い方を忘れてしまった気分なのに。

野太い男性の笑い声に嫌悪感を覚えながら、周囲を見渡すが、宿の従業員どころか客(他に宿泊客がいるのか定かではないが)の姿もない。
みんな下にいるのだろうか。


「すみませーん」


声をあげてみるが、反応もない。
酒場になんて行きたくないけど、でも部屋が暗いままだと困るし。
ため息を一つ零して、階段へと足を向けた。

驚いたことに、席の大半は人で埋められていた。
質素なエプロンを身につけた若い女の子が二人、木杯やトレイを手に店内を駆け回っている。
どれだけ呑んだのか、真っ赤な顔をしてテーブルに伏している人や、酒を一息に呷る人、陽気に歌う人までいた。


一刻前に絶命の悲鳴が響きわたった後だというのに、この盛り上がりは一体何なの?
みんな、あれを耳にしても平気なわけ? どうして笑っていられるの?
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