午睡は香を纏いて
唖然として突っ立っているあたしの肩に、ぽんと大きな手の平が置かれた。


「ひっ! だ、誰!?」

「ユーマさま、お加減はいかがですか?」


いつの間に後ろに来たのか、シルさんが立っていた。
唇の端を僅かに持ち上げただけの、ぎこちない笑みを浮かべている。


「ああ、驚かせてしまいましたか。申し訳ありません」


あたしはひどく怯えた顔をしていたようだ、深く頭を下げられた。


「い、いえ、ちょっとびっくりしただけです。すみません」

「占い師をお探しですか? ご案内しましょうか」

「あ、いや、そうじゃなくて、部屋の灯りが消えてしまって、油をもらおうかと」

「これは、申し訳ない。すぐに替えを用意いたします。あ、いやしかし、今はご覧の通り大忙しの状態でして、手が足りてないのです。少しお時間をいただけないでしょうか」

「え、ああ、構いません、けど。じゃあ、どこにいようかな」


真っ暗な部屋に一人いるのは嫌だった。
落ち込んだ心がますます沈んでいってしまいそうで。
かといって、この騒乱の中に身を置くのも嫌だ。


「では、占いを。よい時間つぶしになりましょう。油の交換が済みましたら声をおかけしますので」

「あ、でも……」

「ささ、どうぞこちらへ」

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