午睡は香を纏いて
あたしの意思を確認することもなく、シルさんは背中を押すようにして酒場の奥へと連れて行った。

シルさんってもしかしてこんな大きな風体なのに、占い好きなんだろうか。
オススメしすぎじゃない? 占いなんて鼻で笑い飛ばしそうな感じなのに。

いや、見た目でそういうの判断しちゃいけないんだろうけど。
しかし、他にすることもないわけだし、断るのも悪い気がするので従ってみようかな。

シルさんに押されるままに、酒場内を進む。

うわ。ここ、ケイルの煙がすごい。
天井が煙で真っ白になっちゃってるじゃん。

けほけほと咽ながら、テーブルの隙間を縫うようにして歩く。
通りすがりに、テーブルに並べられた料理をちらと見る。


あたしに出された食事よりも、ぐんと質が悪いように思う。
小魚を炒めたようなものが少し。麦とくず野菜を煮込んだ、リゾットのようなもの。
あとは数種類のナッツだけ。

食べ物を求めるのではなく、お酒がメイン、ということでいいのかな。
いや、違うか。きっとこういうものしか提供できないんだ。

しかしお酒だけはあるようで、女の子たちは厨房からどんどんとお酒を出してきている。

と、空になった木杯を片付けていた女の子の一人とすれ違った。
あたしと同い年くらいだろうその子の手首には、真横にまっすぐ伸びた生々しい傷跡があった。

え? あれってもしかして……。

笑みを浮かべていた女の子はあたしの視線に気付くと、す、と唇を引き結んだ。
それから杯で手首を隠すようにして、離れて行った。


「さあ、こちらです」


厨房へ消えていく背中を目で追っていたあたしの体を、シルさんが止めた。

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