午睡は香を纏いて
この空間は、何だかおかしい。

汚れた布一枚隔てただけなのに、酒場の喧騒は陰を潜め、穏やかにゆったりした時間が流れていた。
ふわりと香ってくるのは喉を刺すようなケイルのそれではなく、甘やかな、麝香のような匂い。


「お座りなさい」


流れるような手つきで椅子を示され、自分がようやく突っ立っていたことに気付く。


「ええと、あの……か、帰ります」


言いようのない怪しさを感じて、後ずさった。


「あら、どうして? 私は貴方の求めているものを、与えてあげられるかもしれないわよ?」


ローブが微かに揺れて、密やかな笑い声がした。


「求めている、もの?」 

「そう。今でも、そしてこれからは切実に求めるもの」


あたしが求めているもの……?


「例えば愛情、例えば自信、巫力。求めているもの、あるでしょう?
その中でも、貴方が一番望むであろうもの」

「愛情、自信……。って! そんなの別に!」


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