午睡は香を纏いて
全てを信じたわけではない。でも、この人は確かに何かを知っている。
『災厄』という禍々しい言葉に背中がぞくりとするのを感じながら訊いた。
しかし、ローブはゆっくりと左右に頭を振った。


「いいえ。全ては教えられない。そこまで未来に介入することは、先読みには許されていないの」

「じゃあ知っているってだけで、何もできないってことですか?」


不安を煽るだけってこと? つい声が荒くなってしまう。 


「さっきも言ったでしょう? 私は、ほんの少しだけ、手を加えることしかしかできないの。未来を大きく変えることはできない。
でも、少し軌道が変わるだけで、結末は変わることもあるわ。
滝壷に向かってただ流れていくしかない舟でも、櫂一つ与えられたら、岸に辿り着く未来があるかもしれない」

「結末は、変わる……。あの、あなたにはこの先の、結末と呼べる未来を知っているんですか?」


背筋の寒気は、体中を支配し始めていた。
この人は、あたしたちのの行く末を知っているのかもしれない。
しかしそんな途方もない、ありえるはずのないことが、ありえるのだろうか?


「さあ、どうかしら? それは、幻のようなものだもの」


答える気はないらしい。代わりにローブの胸元から何かを取り出した。
コトン、と小さな音を立てて置かれたのは、真っ二つに割れた珠の、半分だった。
赤い輝きは、対球のそれと同じだった。


「さあ、これが貴方に差し出す櫂よ。受け取って」

「これって……割れた対珠、ですよね? これが、何かの役に立つんですか?」
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