午睡は香を纏いて
「人違いはないって。俺、確認したじゃん」

「確認って! な、舐めただけですよね?」


出会った時に頬を舐められたのを思い出した。ざらりとした感触が甦って顔が赤らむ。


「だけ、って。それだけでわかるもん、俺」


 きょとんとした様子でレジィは言った。


「匂い、っつーか、味っつーか。カサネからはサラと同じもんを感じる」

「なに、ソレ」


唖然としてしまう。
そんな不確かなもので言ってるの? 勘違いの可能性たっぷりな気がするんですけど。


「あ、そんな顔して、疑ってるだろ? でも間違えないよ、俺。
まあ、どうしてもって言うなら、後でカインに視てもらえよ」

「カイン?」


そういえば、その名前は何回か聞いた。


「そう、カイン。俺たちの仲間で、元一等神武官サマ。サラの同僚みたいなもんだったんだけど、カインも覚えてない?」


覚えてない。こくんと頷くと、レジィはそっか、と独り言のように呟いた。


「そうだよな。俺、諦め悪いな」

「あの?」

「いや、いいんだ。
でさ、カサネがサラだってことは、間違いないんだ。
記憶がないのは、仕方がないというか、当たり前。
転生するときって、先の世での記憶は消されるらしいんだ」


急に話を戻して、レジィはあの寂しそうな笑みを浮かべた。


「前世の記憶は、次の世に不要だから、ってさ。だからカサネが何も覚えていないのは当たり前のことなんだ。
ごめんな、何回も聞いて。もしかしたら、何か覚えてたりするんじゃないかなー、なんて勝手に期待してたんだ」


本当に、あたしは『サラ』という人間だったのだろうか。
彼の話を完全には信じられない、のだけど、でも。



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