午睡は香を纏いて
「ここに集う者たちは、笑うしか、心を保つ術がないからです。
死ねぬ、しかし死ぬためにいるこの街では、皆が恐怖を忘れようと必死なんです」

「え……」


がやがやと騒がしい酒宴に目をやった。
ぐいぐいと酒を流し込み、顔を真っ赤にしながら笑う人。
肩を叩きあい、杯を合わせながら大きな声で話す人。


「外側だけじゃなく、内面をよく見てごらんなさい。皆、瞳の奥がもう死んでるでしょう?
死人の宴なんですよ、これは」


言われて、注意深く見て、初めて気がついた。

みんな、どこか虚ろだ。
騒がしさがどこか空周りしているような感じなのだ。


「分かりましたか? 本当は誰も、笑っていないんです」 

「は……い……」


さっきまでただの騒乱だと思っていた風景が、急に物悲しいものに思えてきた。


「一つ、教えておきましょう、ユーマさま」

「え?」


あたしと同じように酒場に視線をやったまま、シルさんは続けた。


「外観に惑わされないように。相手の瞳の奥を覗くことを心がけなさい」

「は、い……?」


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