午睡は香を纏いて
無意識にまじまじと見てしまっていたらしい。
男が急に気色ばんで、だん、と足を踏み鳴らした。
謝ってすぐにこの場を離れようと、慌てて頭を下げた。

しかし、ぐいと胸元を掴まれ、酒臭い男の顔の近くに引き寄せられた。


「……か、はっ、く、苦し……」

「んん? 坊主、てめえ女みてえなツラしてんな。身なりは悪くねえが、男娼か?」

「ち、ちが……」

「こんな場所じゃ客もつかねえだろ。なんならわしがカリム酒一杯で買ってやろうか、んん?」


ぐいぐいと胸元が締め付けられる。
息苦しさに咳きこむあたしに構わず、男は見た目から想像もつかないほどの力であたしを引き上げた。
つま先が地を離れ、体が宙に浮いた。

ど、どうしよう。誰か助けて!


「なにしてくれてんだい、あんた」


と、鋭い声がした。
その声の主に濁った視線をやった男が、しまった、というように目を見開いた。と同時に、掴んでいた手をぱっと離す。

吊られていた体が急に自由になって、あたしはどすんと尻餅をついて落ちた。


「マ、マダム。いや、あのわしはその、この坊主を」

「買うとか何とか、言ってたねえ? でもねえ、その子はアタシの大事な客なんだ。
止めてもらえるかい」



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