午睡は香を纏いて
ベッドに、テーブル。カウチもあり、それらはあたしたちが泊まっている部屋のものよりも質が高いように感じる。
部屋の隅にある金のランプ掛けなどは細かい彫細工が施してあり、シルヴェーヌさんが手にしていたランプを掛けると、キラキラと光った。


「そこにでもお座りな」

「は、はい」


艶やかな赤い花が刺繍された布貼りの椅子を勧められ、腰掛けた。
ふんわりと柔らかく、体が微かに沈んだ。


「アンタ、山の子だろ」


キャビネットのような棚から小瓶とグラスを取り出しながら、あたしに聞いた。
この世界に来てからは器と言えば木製か焼き物しか見ていなかったので、透明なガラス製のグラスが珍しく感じる。

切子細工のようなものが施されているそれはきっと、この世界では高価なものだろう。
グラスを眺めていたあたしは、シルヴェーヌさんの問いを満足に聞いておらす、間抜けな返事を返した。


「え、あ、へ?」

「へ? じゃないよ。山だよ。北の山脈の子だろって訊いたのさ」

「山脈……? あ! ああ、はい。オルガから来ました」


回りくどい質問の意図をようやく察して、こくこくと頷くあたしに、シルヴェーヌさんはため息をこぼした。
小瓶の中身をグラスに注ぎながら、ちらりと視線を寄越す。


「その名前は、この街では禁句だよ。ここに人の耳はないとは思うけど、それでも用心するに越したことはない。この街は、敵の本拠地の膝元なんだよ。自分の素性はしっかりと隠しておきな。あの土地のモンだってバレたら、殺されちまうよ」
< 236 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop