午睡は香を纏いて
「そうかい! それはいい」


シルヴェーヌさんは嬉しそうに言って、お酒を並々とグラスに満たした。それをく、っと一息に飲み下す。


「あ、あの。その犬ですけど、いつ怪我なんてしたんですか!?」


シルヴェーヌさんの話からすると、レジィは命に関わるような怪我を負っていたことがあるってことだ。
訊くと、シルヴェーヌさんは、知らなかったのかい、と言って、眉間にシワを寄せた。


「言っちゃまずいことなのかねえ。山の子だからって安心してたんだけど、間違いだったかね」

「あ、あの、教えてもらえませんか? 怪我のことと、その、心のことも」


心も生きてるか、なんて、以前は死にかけていたかのような質問だ。
あのレジィを、体だけでなく心まで傷つけるだなんて、一体何があったの? 


「さて。言っていいものかねえ。あいつがわざと隠してるってんなら、アタシがべらべら喋るのもうまくないしねえ」

「お、お願いします! あたし、あの人のこと知りたいんです!」


ブランカに出発するあたしたちを、わざわざ見送ってくれたレジィの笑顔を思い出していた。気をつけてな、と頭を撫でてくれた、手の平の温もりも。
あの温かさは、この世界に来てからずっと、あたしを支えてくれている。
そんなレジィのことを、もっと知りたい。
それが辛い過去だとしても、知っておきたい。
知っていれば、いつかあたしだってレジィの助けになれるときが来るかもしれない。

ふむ、と腕を組んであたしを見下ろすシルヴェーヌさんに、深く頭を下げた。
少しの間を置いて、頭上でふん、と笑う声が聞こえた。


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