午睡は香を纏いて
「そっか。じゃあ明日の夜明け前に出発しよう。なるべく人目につかないほうが……誰だ?」


レジィが木戸に視線をやって、低く問うた。すばやく背中のものに手をかける。
何? とあたしが聞こうとしたとき、木戸の向こうから声がした。
しかし、その言葉が上手く聞き取れなくて、あたしは首を傾げた。


「ライラか」


レジィは誰なのか分かったらしい。
声音が和らいだ。背に回していた手を離す。


「入っていいぞ」


そっと入って来たのは、あたしと同年代の女の子だった。
頭を下げて、何事か喋る。
でも、あたしは彼女の口にしている言語が全く理解できなかった。

何語? 英語ではないことは分かるけど。

訝しい顔をしているあたしに気付いたレジィが、思い出したように首にかけていた首飾りを取り出した。
あたしを連れてくるときに使っていた、赤い球のついたもの。


「カサネ、これ、持ってろ」

「え?」


光の海を思い出して、たじろぐ。またあんな光が溢れたりするのだろうか。


「カインから預かった珠。これを持ってたら、言葉が分かるようになると思う」

「分かる、って、だってあたしはレジィと会話出来てるよ?」

「それは、俺がこれを持ってたから」


銀鎖のそれを外して、レジィはあたしに突き出した。
珠を持っていないと、言語が理解できない、そういうことらしい。
言葉が分からないことには、不便極まりない。


あたしは恐る恐る、それを受け取った。
今はごく普通の赤い珠に見える。中心部にいくにつれ色が濃くなっているだけの、綺麗だけど、ただの珠。

大丈夫、だよね? いくばくかの不安はあったけれど、首にかけた。


「あの、私、お邪魔致しましたでしょうか?」


女の子の話していることが、聞き取れた。

さっきまでは分からなかったのに!
すごい、コレ、と首元の小さな赤い珠を握り締めた。


「いや、邪魔じゃないさ」

「それならよいのですが」


改めて、小屋に入ってきた女の子を見た。
かわいらしい子だった。ふわふわした金髪に、そばかすの浮いた小麦色の肌。
瞳は大きな青い瞳。緊張しているのか頬は紅潮している。



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