午睡は香を纏いて
けれど、あたしが真っ先に気になったのは、彼女の服装だった。
シンプルなえんじ色のロングワンピースは、腰に大きめのリボンがゆったりと結ばれていて。裾からはちらりと白のペティコートが見えている。
それに、編み上げの革靴。

映画か何かでこんな服装見たことある。
中世ヨーロッパとか、そんな時代が舞台のやつ。

そんな服装が彼女にはよく似合っていて、そしてしっくりと着こなしているから、これが普段着なのだろうと分かった。

ここは別世界なのだとレジィは言っていたけれど、なるほど、こんなことで実感してしまう。


「あの……サラ様、でございますか?」

「え? は、あ、あの」


彼女の瞳があたしに向けられた。問いにどう答えていいのかとうろたえていると、レジィがあっさり肯定してしまった。


「ああ、そうだ。今は名をカサネという」

「カサネ様、でございますか。そうですか。お目覚めに……」


ほう、と全身でため息をついたかと思うと、ライラという女の子はいきなり膝をついて頭を下げた。


「カサネ様、お戻りを心からお待ち致しておりました。
どうか、どうかこの国を、私たちをお救い下さいませ」

「ちょ、ちょっと!?」


熱のこもった、潤んだ声で言われ、慌てて立ち上がった。
どうしてこの子はあたしに頭なんて下げるわけ?


「あ、あの、頭上げてくれませんか?
あたしまだよくわかんなくてそんなこと言われても」

「弟が神武団に殺されました。その骸すら返してもらえませんでした。
何も、何も罪を犯していないのに……っ」
 

叫んでいるわけではなかった。彼女の声は落ち着いているといってもよかった。
けれど、泣いていた。
肩を震わせて、ライラさんは静かに泣いていた。


「もう多くの民が殺められました。皆、不当に裁かれ、理不尽に命を奪われました。
お願いでございます。わたしのような者を、これ以上増やさないで下さいませ」

「……ライラ。カサネは目覚めたばかりだぞ。気遣ってやれ」


必死の様子に何も言えずにいると、空気を変えるようにレジィが明るく声をかけた。



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