午睡は香を纏いて
「カサネを迎えに行く前に、窺見(うかみ)をブランカに放ってる。
あいつら、特にムスクは手練れだから捕まるなんてヘマはしないだろう。
ムスクは鷹を使うんだけど、ここは幸い、その鷹の中継地なんだ。
何かあれば、鷹がここに帰ってくる。それからでも、十分間に合う」


聞きなれない言葉ばかり。
けれどそれが、ここが別世界なのだと教えてくれているような気がする。


「で、でもここは危険、ってことなんでしょう?」

「まあ、安全ではないな。敵の懐に近いし。
それで、カサネは体調はどうだ? お前さえよかったら、明日にでもここを発ちたい」


レジィ曰く、あたしはこの世界に『転送』されてきて、丸一日眠りっぱなしだったらしい。
『転送』というのはあたしの知識から判断するに、『ワープ』みたいなもので、
それは『神官』と呼ばれる人たちの、その中でもごく僅かな人しか仕えない技なのだそうだ。

これは術を使う側ももちろん、転送される側もすごく負担が大きく、体の弱い人間には耐えられない、とのこと。

まあ、それは納得した。
命をかけたジェットコースターに乗せられた気分だったし。
おばあちゃんだったら死んでた、なんてレジィが言っていたのも、当然だと思う。

レジィは常日頃から鍛えているらしく、『転送』されても、少し疲れるくらいなのだと言う。


「オルガまでは馬で四日。いや、五日かな。カサネは乗馬は?」

「無理、というか馬に乗ったことなんてありません」

「そうか。それなら五日はかかるな。転送の疲れが残っているようなら、なるべく気をつけるから、明日出発してもいいか」


ここにいて危険だと言うのなら、安全な場所へ行くというのに不満なんてない。
疲れというのも、特にないように思う。


けど、馬? この世界の移動手段は、馬が常識なのだろうか。
今まで馬なんて、動物園でしか見たことなかったんだけど。
ちゃんと乗れるのかどうか不安になりながらも、とにかく頷いた。



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