午睡は香を纏いて
「まずは食事にするか。明日からはちょっとキツイ道のりになるから、いっぱい食っとけ」

「レジ……」

「失礼致します。お食事のご用意ができました」


こつこつと遠慮がちに木戸が叩かれ、ライラさんの声がした。


「あ、扉開けるから待ってな」


柵をひょいと越えて、レジィは木戸を開けた。


「あ、申し訳ありません」


大きなトレイを抱えたライラさんが、恐縮しながら入ってきた。
と同時にふわりと温かな香りが鼻をくすぐる。
さっきから空気を読まないお腹が、またもやぐう、と声を上げた。


「えーと、あ、これをテーブル代わりにするか」


小屋の中を見渡したレジィが、隅にあった木箱を持ってきた。
あたしの目の前にそれを置き、ライラさんからトレイを受け取る。


「あ。俺の分もあるの?」

「はい。先程お気に召されたようでしたから」

「やった。これ、旨かったからさー」


ありがと、と嬉しそうに言って、レジィは木箱にトレイを載せた。


「わ、おいしそう……」


木製のお椀に、湯気をあげるスープが並々と注がれていた。食欲をそそる香りに鼻がひくひくと動いてしまう。
それに、丸いパンが盛られた木皿と、陶器の水差し。木杯も添えてあった。


「お口に合えばよろしいのですが……」

「いただきます」


両手を合わせて、頭を下げる。それから、ほかほかのお椀を手にとり、口をつけた。


「あ、おいしー……」


スパイスの効いたスープは、初めての味だったけれど、すごくおいしい。
具沢山で、柔らかく煮込まれたお肉がほろほろと口の中で溶けていく。

最初の一口で、食欲に拍車がかかってしまったらしい。
気付けば椀の半分以上を食べてしまっていた。



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