午睡は香を纏いて
「レジィ、どういうことなんですか?」


コトン、と木戸が閉じた音を聞いてから、レジィに訊ねた。


「ライラの家は元々オルガの民なんだ。それが今は、里を隠してこのヤシムスで暮らしてる。
普段はその土地に馴染んで生活して、有事の際にはオルガの為に働く者たち。忍人(おしひと)っていうんだけどな。結構色んなところにいるんだぜ」

「いや、そういうことじゃなくて」

「え? じゃあ、ここで食事するってことについて? それは、さっきも言ったとおり、人目につかない為。
忍人以外は俺たちのこと知らないからさー。『誰?』とか聞かれたら面倒なことになりかねないだろ」

「そうじゃないですってば。その、殺されたとか、それを救ってくれ、とか」

「……ああ、それか。そうだよ。この国は今、リレトと頂点とした一部の人間の為だけに、多くの命が消されている。
ライラみたいに家族を失った奴は多いし、一族郎党絶やされた、なんて話も聞く。

中には……邑が一つ、潰された、とかな」

「そんな……」


あんな風に泣く人が、たくさん? ライラさんの頬を伝い落ちた涙が思い出された。


「このままだと、人はもっと殺されていく。大切な人を失って悲しむ者も、もっと増えていく。
早く、こんな馬鹿げたことをする奴らを止めなきゃいけない。そのために、俺たちはカサネを探したんだから」

「あた、し? あたしが何ができるって言うの?」


あたしに何の力もないことは、自分が一番よく知っている。
取り立てて優れたところなんて、何もない。
あの縋るような瞳に、答えられるような力なんて、ないのに。


「できるさ。だってお前は、サラだったんだから」


にこ、と笑って、レジィは立ち上がった。




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