午睡は香を纏いて
ムカムカしたものが引いていく。口中に広がる甘味に、これを差し出してくれたカインを思い出した。

カイン。

一緒に逃げ出せなかった。
今、どうしているだろうか。
あの時、セルファはカインは大丈夫、というようなことを言っていた。
けれどあたしたちが逃げ出してしまった今も、カインの身は安全なのだろうか。
セルファに訊きたいけれど、それも叶わないし……。

ううん、今は信じよう。

きっと、カインは無事でいる。

きっと、無事で。


「まずは、自己紹介から、しましょうか」


考え込んだあたしの気持ちを切り替えるように、占い師が言った。
慌ててそちらに顔を向けると、占い師はぱさりと、深く被っていたローブを脱いだ。


「私の名前は、マユリ。多分、最後の先読みよ」

「マユリ……さん」


目を奪われた。

さらりと流れる、銀のストレートヘア。
とろりとした蜜のような褐色の肌に、造作の整った顔立ち。
琥珀色の瞳は、庇護欲を駆られるように頼りなげで繊細な光を放っていた。

触れたら消え入ってしまいそうな、儚げな美女だった。

しかし、意識を持っていかれたのは、容姿ではなかった。
彼女の左頬には、多少の引き攣れを伴う赤黒い蚯蚓腫れが、大きく形どっていた。
美しい顔に張り付く、凄惨な痕。
その形に、見覚えがあったのだ。
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