午睡は香を纏いて
「カサネ。このパンも旨いそ、食え」


ライラの消えた木戸を見つめていると、目の前に丸パンが差し出された。


「あ、ありがとう……」


それを受け取って、一口齧る。 


「あの、レジィ? サラさんって、偉い人だったんですか?」

「んむ?」


あたしのこぶしほどの大きさの丸パンを、レジィは一口で食べた。
もぐもぐと忙しく口を動かしながら、『待て』というように手の平をかざす。


と、むせた。

顔を真っ赤にして胸元をどんどん叩くレジィに、慌てて木杯を渡した。
水差しの水をそれに注ぐと、喉を鳴らして飲む。


「……っ、はーっ! やべ、苦しかったぁ」


ふう、と肩で大きく息をついて、レジィはあはは、と笑った。


「一気に食べようとするからですよ。
急がなくてもなくならないから、ゆっくり食べたらいいと思います」

「へへ。気をつける」


そう言いながら、レジィは再び大口を開けてパンに向かおうとする。


「ほら、また」

「とと、悪い。ゆっくり、だな」


ぱく。
今度は小さくちぎって口に入れたレジィに、よしよし、と頷いていると、


「それよりさ、その口調、止めて欲しいなあ」


と言われた。


「え?」

「その口調、よそよそしいじゃん。普通にできない?」

「普通、ですか」

「うん。友達みたいなカンジでさ」


にこりと笑う。きゅ、と上がった唇の端には、パンくずがついていて。
その子供っぽい笑顔に、ついくすくすと笑ってしまった。


「え? 何?」

「う、ううん。あの、じゃあ止める」

「そか」


満足そうに頷いたレジィに、自分の口元を指差してみせた。


「何?」

「パンくず、ついてる」

「マジ!?」


袖でごしごしと口を拭うレジィに益々笑ってしまう。


「笑った」

「え?」

「やっと笑ってくれた」


笑いすぎて目の端に滲んだ涙を拭ってレジィを見ると、心なしか身を乗り出したようにしていた。



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