午睡は香を纏いて
そんなに、あたしが笑ったことに驚かなくても。
と思う反面、こんなに笑ったのって久しぶりかも、とも思う。


いつも眉間にシワを寄せて、唇を引き結んでいたから。


「あ、顔背けるなよ」


レジィがあまりにもじ、と見るので、耐えられずに顔を背けた。


「なんか恥ずかしいもん」

「何で。見てるだけじゃん。こっち向けよ」

「いや、それが恥ずかしいんだってば」


こっち向け、いやだの問答を繰り返していると、木戸が鳴った。


「はいはい、開けるから待てよー」

「失礼致します」


レジィが開けるのを待たずに中に入ってきたのは、ライラではなく、大きな体の男の人だった。
四十代位のおじさんで、毛のない頭はじゃがいもみたいにでこぼこしていて、顔はどこまでも厳めしい。

半そでのシャツから出た腕は丸太みたいに太くて、毛がもじゃもじゃくっついている。
その姿の威圧感はなかなかのもので、小屋内が一気に息苦しくなったような気がする。
のそりと入ってきた強面の男の人は、あたしを見てとると、いきなり膝をついた。


額を地面につけんばかりに平伏する。


「え? ちょ、あの」

「よくぞお戻り遊ばされました。
貴女様よりお命頂きました、ゼフにございます。覚えておいででしょうか?」

「え? は?」

「これより起こる大乱に、この命捧げる所存でおります。
貴女様の命があればどこへなりと馳せ参じます」


野太い声で言われた内容が、上手く整理できない。
あたしがこの人の命を救った、って、ええと?

あ、サラのことか。
って、こんな人に頭を下げられて、命捧げます、なんて言われてるサラって、本当に一体どんな人なんだろうか。

とにかく、サラはどうあれ、あたしは頭を下げられるような人間じゃない。


「あ、あの、もう顔上げて下さいっ!」

「は。では、失礼致します」



< 34 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop