午睡は香を纏いて
馬というものは、痛い。
レジィの駆る馬に乗っているあたしは、激しい揺れと、
その衝撃を受ける腰の痛みにひっそり耐えていた。


流れる景色を見る余裕もない。
レジィに背中から抱きしめられるように座っているので、
振り落とされる心配はないだろうけど、それでも怖くて、
跨いでいる鞍の端をぎゅう、と握っていた。
その手は力を入れすぎたせいか、感覚がなくなってきたような気がする。


「カサネ! 馬を換える」


どれくらい馬上の人になっていたのだろうか。
痛みがぼんやりとした痺れに変わってきた頃、頭上から声が降ってきた。
と同時に、揺れが緩やかになる。
馬の足取りが歩みに変わったのだ。


「あ……、うん。結構走ったもんね」


ああ、ようやく息がつける。
あまりの速さに呼吸も絶え絶えだったあたしは、深く息を吸い込んだ。


「そうだな。まだ距離があるからな。無理はさせられない」


馬は、こまめに休ませないとダメになってしまうらしい。
レジィは馬を二頭用意していて、何でかと聞くと、交互に乗り換えることで馬を休憩させるのだと教えてくれた。


確かに、二人の人間を乗せて走るんだから、疲れて当たり前か。
あたしは目の前で歩みに合わせて揺れる葦毛のたてがみに手を伸ばし、そっと撫でた。


あなたたちがバテてしまったら、立ち往生してしまう。
重いだろうけど、頑張ってください。


「もうちょっと行ったところに湖があるはずなんだ。ついでにそこで俺たちも休憩だ」

「うん」


休憩。地面に座れる。
少しほ、として、あたしは周囲を見渡した。
さっきまでは何もない、草原のような場所を走っていたはずなのに、
緑生い茂る木々が増えている。
木々の隙間から、開けた草原の姿を見る。
人どころか動物の姿すらないのを確認して、聞いた。


「ここ、大丈夫だよね?」

「ああ。何か来たら確認できるくらいには開けてるしな」

「そっか」

「少し仮眠を取っていくか」



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