午睡は香を纏いて
……あれ? ちょっと待って。


あたし、そのサラらしい、んだっけ?


気付いた瞬間、体中の血液が沸騰した気がした。
前世のあたしが好き、そういうことなんだよね?
うわ、あの告白は過去のあたしに向けられていたんだ。

耳まで熱い。顔が真っ赤になっているのが分かる。

落ち着け、落ち着け自分。
レジィは『サラ』が好きなんであって、『カサネ』が好きなわけじゃないんだよ。
サラの記憶も何も持ってないあたしが、サラと同等のはずがないじゃない。
うんうん、と一人納得しながら、過剰にレジィを意識し始めた自分を諫める。

さっきの言葉にじんわりと感動してしまっていた分、過去であるとはいえ、それが自分に向けられていたことに、うろたえてしまったのだ。
あの告白の先にいたのが一応自分だったなんて、動揺するに決まってる。


でも、冷静になれ、あたし。
ほら、レジィが語った『サラ』を思い出してみて?

金髪、碧眼、近代一の美女で、完璧扱いされるほどの巫女姫。


次に自分を返りみて?

黒髪ボブヘア。二重なだけが取柄の黒い瞳。低い鼻。美女なんて背伸びをしても無理な、おとなしい顔立ち。

性格だって、完璧なんてものとは程遠い。頑固や意地っ張り、なんていうのは同じだけど、それを上手く隠すなんて真似、できない。


ね? レジィが好きな『サラ』と、あんたは違うでしょ。


「そうだよ、違うよね」

「ん? 何が」


自分に小さく言い聞かせた言葉は、レジィの耳にまで届いていたらしい。


「イエ、ベツニ」


 こんなこと考えてるなんて知られたら、この馬から飛び降りるしかない。
って言っても、怪我するだけなんだろうけど。意味のない行為すぎるか、あたし。



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