暇潰し物語
お婆ちゃんの話しでは、この名前を付けたのは、ボケてしまっているお爺ちゃんらしい。

と言っても、お爺ちゃんとも、お婆ちゃんとも、僕は血の繋がりはない。

お爺ちゃんが散歩から帰って来たら、赤ん坊の僕を抱っこしていたらしい。

そして、僕を育てる事になったのはいいのだが僕の事を、お爺ちゃんは半年前に逃げ出した猫のタマだと言い張り、お婆ちゃんが再三言い聞かせたが一切譲らず、お婆ちゃんも根負けし、斎藤玉と言う名前になったらしい。

僕は卒業証書を受け取り自分の席に戻った。

だけど、こんな日々も今日で終わる。

今日は気分が凄くいい、むしろ何をされても、何がおこっても、今日は大丈夫だ。

こんなに楽しい気分で居られ学校は始めてかもしれない。

さらに、僕は就職が決まっている。

住み込みで働けるパチンコ屋の店員の仕事だ。

僕の事を誰も知らない東京での独り暮らし、イジメられない普通の生活、そこから始まるんだ。

人の声「お前にそんな事できるのか?」

僕はとっさに周りを見渡す。

僕の方を見ている人は誰もいない。

僕に?僕に話しかけた?

そんなはずはないか、今やインフルエンザ並みの、ばい菌と化している僕に話しかける奴なんていないはずだ。

そして、卒業式は終わりを迎え、卒業生は退場し、そのまま校庭に出た。

体育館にいたその他全員も校庭に出て来て記念写真を撮ったり友人同士でふざけあったりと、各々卒業を楽しんでいた。

僕はその団らんの中を、早足ですり抜け、早々と校門を出た。

家路を歩き始めた僕の足は段々と速くなり終いには走っていた。

驚く程足は軽く、一切止まることなく走り抜けた。

終わったんだ!とうとう終わったんだ!やった!やったー!

僕の家は学校から歩いて15分程にあらるアパートの一階に住んでいるのだが、今日は10分もかからず家に着いた。

玉「ただいまー」。

息を切らせながら、玄関を開けるが、いつものお婆ちゃんの返事がない。

買い物にでも行っているのかな?

違和感を感じながらも、僕は靴を脱ごうとしゃがんだ時にやっと気ずいた。

寝室の方「う…う…うう…」。

誰かが泣いてるように聞こえる。お婆ちゃん?お爺ちゃん?

急に怖くなった僕は、靴を脱ぐのを止めて、足音を殺すように、靴のまま家に上がった。
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