黒き藥師と久遠の花【完】
 剣で応戦しても間に合わない。
 レオニードはみなもの手首を掴み、動きを止める。
 それでも刺そうとする気持ちは変わらず、あらん限りの力で押してきた。

 いきみながら、みなもが顔を上げる。
 挑むような眼差しを送りながら、彼女の口が動いた。

『――――』

 あまりに小さく、自分だけにしか聞こえない声。

 レオ二ードの目が大きく見開いた。

(……そうだったのか。みなも、君は――)

 詳しい事情は分からないが、みなもの狙いが伝わってくる。
 より困惑して動揺する胸の内に反して、レオニードの頭は冷静に自分のすべきことを探っていく。

 とにかく今は逃げるしかない。
 レオニードは剣の柄で、素早くみなもの腹部を突く。

「かはっ……!」

 彼女の息遣いが停止し、その場に膝をつけてうずくまる。

 この隙を逃さず、レオニードはみなもから離れ、襲い来る剣を弾き返しながら浪司の元へ向かった。

 四人を相手にして疲れを見せているが、振るう剣は鈍っていない。むしろ浪司のほうが押しているように見えた。

 こちらの動きに気づいた一人が斬りかかってくる。
 すぐに距離を縮められるが、動じずに剣を構えなおす。

 相手がみなもでなければ、遠慮なく戦える。
 レオニードは迫る刃に臆することなく、懐へ飛び込んだ。

 振り下ろされた剣撃を受け流し、無防備になった敵の胸を斬りつける。
 敵がよろけたところで、浪司と交戦する三人に向けて蹴り倒した。

 敵が「うわっ」と体勢を崩して重なり合う。
 うまく身を翻して巻き添えを避けた浪司は、レオニードに目配せした。

「今ここで粘っても、みなもを助けられん。悔しいだろうが逃げるぞ」

 後ろ髪を引かれる思いだったが、レオニードは無言で頷く。
 そして浪司に並ぶと、新たに襲い来る敵をなぎ払いながらその場を離れた。


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