黒き藥師と久遠の花【完】
 こちらが守りに入って刃を弾き返す度、即座にみなもは剣を振るってくる。
 力こそ弱いものの、予想以上に素早い身のこなし。
 しかも彼女には毒もある。周りには他の敵もいる。手加減しながら相手をすることはできなかった。

(みなも、すまない……!)

 レオニードは全力でみなもの刃を弾き、彼女の体を後ろへ吹き飛ばす。
 みなもから小さく唸る声が聞こえ、激しく胸が痛んだ。

 後方からは、浪司が数人を相手に剣を交える音がする。
 彼を援護しなければと心は焦る。
 しかし、みなもから離れても他の敵から剣を振るわれてしまい、己の身を守ることで精いっぱいだった。

 そんな状況を、ナウムは勝ち誇った笑みを浮かべながら傍観していた。

 あの男を斬りつけなければ気が済まない。
 だが、ここで自分たちが殺されてしまえば、二度とみなもを救えなくなってしまう。

 生きて果たすことに意味がある。
 初めて会話した時、みなもに言われたとが脳裏によぎった。

(不本意だが、ここは一旦退いたほうがいい。逃げ道は――)

 レオニードが瞳だけを動かし、辺りを見渡そうとした刹那。
 体当たりするような勢いで、みなもが突進してくる。
 剣の切っ先は真っ直ぐにこちらの腹部へ向けられ、確実に突き立てようという狙いが垣間見えた。

 反射的に身を翻し、レオニードはみなもを避ける。
 勢い余って彼女は前のめりになり、隙のある背中をあらわにした。

 誤ってみなもを斬ってしまう前に、このまま気絶させてしまおう。
 レオニードは彼女の首めがけて手刀を振り下ろす。

 気配を察したみなもが、振り向かずにその場へ身を縮ませる。
 そして、こちらの手刀が空振りしたのを見計らい、再び剣を向けてきた。
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