黒き藥師と久遠の花【完】
 衣装を身に付けたら即座に「じゃあ次はこれ」と、新しい衣装を着せようと取りかかる。
 モタモタしていると彼女たちの手が伸び、容赦なく人の服を脱がそうとしてくるので、仕立て屋を出るまでずっと気を張り続けていた。

 今なら毛刈りで丸裸にされる羊の気持ちがよく分かる。
 内心げんなりとしながら、みなもは首を動かして隣りを見た。

 レオニードは片膝を軽く曲げ、壁に背中をもたれかけている。
 薄く苦笑を浮かべ、彼は昼間に見せた温かな眼差しでみなもを見つめていた。

「叔母さんが、どの服を着せても素敵だったと言っていたぞ。君には悪いが、俺も見てみたかった」

 ゾーヤさん……針子さんたちと一緒になって、「次はこれが良いんじゃない?」と着せる服を吟味していたな。

 心から楽しそうだったゾーヤの顔を思い出し、みなもは小さく息をついた。

「大変だったけれど、みんなに喜んでもらえたみたいで良かったよ。でも……」

 あの中で一人だけ、笑顔を作りながら凍てついた視線を送っていたクリスタが脳裏をよぎる。
 昼間に感じた胸の痛みが、じわじわと滲み出てきた。

「……そういえばクリスタさんっていう人から、小さい頃からレオニードのことを知ってるって聞いたよ」

 クリスタの名を聞いた瞬間、レオニードの表情が曇る。

 単なる顔見知り、って訳ではなさそうだな。
 みなもは腕を立てて身を起こすと、レオニードへにじり寄る。

「聞いてもいいかな? クリスタさんとはどんな関係?」
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