夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
補欠は制服のポケットに両手を突っ込んで、優しい優しい目をしてあたしに頷いた。


少しだけ、困ったな、そんな表情だった。


その意味深ともいえる補欠の表情に、なぜかほっとした。


補欠はきっと、どんな空気も読める男なんじゃないかと思う。


それで、その空気にさりげなくごく自然に、でもきちんと溶け込めるような。


補欠はポケットから左手を出して、おいでおいでと手招きをした。


泣き続けるあっこの手からそっとすり抜けて、あたしは立ち上がった。


補欠は鼻に人差し指を当ててシーとジェスチャーすると、あたしの手を取って教材室を静かに出た。


「ふたりきりにさせてやろうぜ」


そして、静かに戸を閉める。


「うん」


あたしは補欠の手を握り返した。


「補欠」


「うん?」


「付き合って二日目でこんなこと言うのもあれだけどさ。恋とは偉大なるものだな」


補欠は目をぱちくりさせて、小さく笑った。


「大袈裟だな」


人間、生きてりゃ恋に落ちる。


恋ってのは偉大だ。


人を変える。


まさか、あの状況で、あの内気なあっこがぽろりと気持ちをこぼした。


「大袈裟なもんか。偉大だよ。あたしはそう思う」


ぎゅっと補欠の手を握ると、


「そうかもな」


そう言って、補欠はあたしの手を引いて歩き出した。


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