夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「そうです。この方の場合、3ヶ月後、半年後……と腫瘍が小さくなったんですね。こういう例も報告されています」


長谷部先生の説明は丁寧かつ分かり易く、不安なあたしと母を必死に安心させよう、前向きにさせようとしているのが、ひしひしと伝わってきた。


「ですから、少し、様子をみてみるのも方法だと考えたのですが」


長谷部先生は言っていた。


良性の腫瘍には拡大していくスピードが遅いという特徴がある、と。


もちろん、若いから一概にには言い切れないが、と。


むやみに難易度の高い手術をして、後遺症を残す可能性も低くはない、と。


「ですから、春まで、様子をみてみませんか。それで、大きくなるようでしたら、部分摘出をしましょう」


あたしと母は、全てを長谷部先生に委ねることにした。


「全力を尽くします」


真っ直ぐな目でそう言ってくれた運命の医師に、委ねる道を選んだ。


この日から、あたしの長い闘いの日々が始まったのだ。


説明を聞き終えて、会計待ちの長椅子で、


「このことは、あたしと母のふたりだけの秘密にしてくれないか」


あたしはお願いした。


母は小難しい顔で、あたしを見つめた。


「……補欠にも、か?」


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