夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「血管と神経が入り組んだ場所は、どうしてもその管を傷つけずに全摘出するのは困難です」


あたしと母は、息をのんだ。


長谷部先生が続ける。


「部分摘出となると、残った細胞が再び拡大してまた脳を圧迫してしまう可能性が高くなるんですね」


小さな希望の道が突然、ブツリと絶たれたような気分だった。


良性なのに、再発するのかよ。


面倒くさい、やっかいなやつに好かれてしまったもんだ。


「難易度の高い手術になるのは明確です。術後も、経過をみるために通院が必要です」


長谷部先生は濁すことなく、バッサリと言い切った。


それじゃ、手術をして、再発して、手術をして、再発して……。


その繰り返しだと言うのだろうか。


先に見える全ての道が、真っ暗闇のトンネルに見えた。


「これは、一例に過ぎないのですが」


長谷部先生が、別の写真を出して落ち着いた口調で始めた。


「この方の場合。もう60を過ぎているのですが、見てください」


同じ頭部の断面図が、3枚並んだ。


「この白い部分が腫瘍です」


右から左へ、順に長谷部先生が指差していく。


「「あ……」」


不意に、あたしと母の声が重なった。


このひと……すっげー。

奇跡。


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