夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「えーっ! うそー、ドラマみたーい! ステキー! うらやましー。私も、一度でいいから言われてみたーい!」


いいのか。


こんなミーハーな看護師が担当で、大丈夫か。


「つうか、少女マンガの見すぎだし!」


豪快に笑い飛ばしてやると、鈴木っちはお構いなしに妄想の世界に入っていった。


「爽子。おれがお前を甲子園に連れてってやるよ……なんてーっ!」


キャー! 、とへたくそなひとり芝居をした彼女は、出逢った瞬間から別れの時まで、本当に友達のような年上の女性だった。


「翠ちゃんと彼のなれそめ話、教えてよー」


「ええー……鈴木っちにはもったいねえよ」


「いいじゃなーい! ケチ」


話が盛り上がり始めた時、


「こらこら、看護師が病室でそんな声だして」


病室に現れたのは、長谷部先生だった。


「あっ、すみませーん」


肩をすくめる鈴木っちに、長谷部先生は「しょうがないな」と苦笑いした。


「翠さん、体調はどうかな」


「ぼちぼちかな。とりあえず腹減った」


「それはけっこう」


ハハハ、と長谷部先生が大笑いした。


「さ、移動の準備して。そろそろ、時間だよ」


そのあと、再度、手術の流れについての確認が行われ、あたしはストレッチャーに移って病室をあとにした。


手術室に入る直前、


「あら……ちょっと待って」


と年配の看護師さんが、あたしの右手首を掴んだ。


「ああ……これ持っては入れないの。預かっておくわね」


手からそれを取ろうとした彼女を、あたしは思いっきり睨んだ。
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