夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
睨むように見つめると、先輩は微笑みながら頷いた。


「すげえよな、信じらんねえだろ。もう限界超えてるよ、たぶんな」


しばらく、言葉が出なかった。


野球部エースの彼女のくせに、野球の醍醐味なんてこれっぽっちも分からない。


でも、それだけは、あたしにも分かる。


補欠は、今、すごい事をやってのけてんだ。


苦しい表情を浮かべるわけでなく、笑顔ひとつ見せるわあけでもない。


補欠はマウンド上で、ただ寡黙に白球を投げ続けていた。


心を、感情を、無くしてしまったような無表情だった。


打たれようが、三振をとろうが、補欠はどんな場面においても無表情だった。


「苦しく、ないのかな」


あたしがぽつりとこぼすと、先輩がプッと吹き出した。


「苦しいに決まってるだろ。苦しくないエースなんか、いないよ」


どういうこと、意味わかんない、と集まって来た結衣と明里に、先輩は語りかけるように言った。


「本物のエースってさ。夏井みたいな投手のことを、言うんじゃないかな」


さっぱり理解できなかったけど、あたしはこっそり、ベッドの中で胸を焦がしていた。


回を重ねるごとに白熱していく試合展開から、目を離す事が出来なかった。


桜花に3点差もつけられていたのに、6回裏で南高が同点に追いついた時、ほんの少し泣きそうになった。


テレビを見つめながら、あたしたちは次第に言葉を交わさなくなった。


結衣も明里も、先輩も、あたしも。


試合にのめり込んだ。


桜花が打てばギャアーッ、南高が打ち返せばギイヤアアアーッ。


桜花が守ればギエーッ、南高が守りぬけばギエエエーッ。


言葉の代わりに、あたしたちのやかましい悲鳴が病室に響いた。


7回表、南高の守りになった時、あたしは無意識のうちに先輩の手を掴んでいた。


絶対、おかしい。


何かがへんだ、確実に。

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