夏の空を仰ぐ花

ライバル出現

人は恋という湖に溺れた時、強くなれる者と、弱くなってしまう者に分かれる。


例えば、あたしの場合。


「ミラクルハッピー!」


あたしは間違いなく、前者だろう。


青空の下を駆け抜けて行った補欠の背中を見送り、上機嫌でどっかり椅子に座ると、クラスメイトたちがこぞって吹き出した。


「もー! 翠ちゃんてば」


「突然、とんでもないことするんだもん」


「ああー、びっくりした」


クラスメイトたちは笑いながらも、ほっとした様子で胸をなで下ろしている。


まあ、無理もない。


一歩間違えれば、あたしは間違いなくこっぱみじんになっていたのかもしれないのだ。


3階から急降下して、こっぱみじんに。


そんなヘマ、絶対にしないけど。


「はーっ……力抜けた」


まじ勘弁、とひとつ前の席の椅子にへなへなと結衣が座り込んだ。


まるで、何ヶ国も歩き続け、力尽きた旅人のように。


「頼むぜー、翠いー」


「何が? どうした、結衣。大丈夫か?」


ケロリと言ったあたしを、結衣がキッと睨んでくる。


バッサバサのひじき睫毛で。


「なんだ、この女! 人をさんざん心配させときながら」


そんな結衣の横で窓辺にもたれていた明里が、ゲタゲタと下品に笑った。


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