夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「あっ、そっか。そうだよね。ひと足遅かったか」


もう少し急げば良かった。


とシュンとして、さらっさらの髪の毛を片耳に掛けて、彼女はフフッと笑った。


胸騒ぎがした。


なぜか、すごく、焦った。


わざと避けるように教室を出ようとするあたしを、とっさに彼女が呼び止める。


「あのっ」


「なに?」


「聞いてもいいかな?」


ダメ、とあたしが返答するのを待たずして、彼女は一方的に聞いてきた。


清楚な顔して、けっこう図々しい女だ。


「明日の球技大会」


「え?」


「夏井くんが出る種目、分かる?」


キラキラした純粋なその目を見て、なんとなくピンときた。


なにせ、あたしはカンが鋭い方なのだ。


このステキ女子、補欠に気があるな。


「……野球」


と口にした瞬間、しまった、と後悔した。


「えっ、本当?」


ぱあっと花開くように笑顔になった彼女を見て、後悔した。


何やってんだい、あたし。


教えなきゃ良かった。


なんで教えてしまったんだい、あたし。


イライラする。


泣きたいくらい、後悔に押し潰されそうになった。


その時、


「あのーっ!」


あたしの前にずいっと出て来たのは、明里だった。



< 80 / 653 >

この作品をシェア

pagetop