夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「ああ、あたし、響也のこと“補欠”って呼んでるの」


「そうなんだ。翠ちゃん、夏井くんと仲良しなの?」


「当たり前じゃん」


補欠のこと、大好きなんだから。


仲良くなるまで、少し、苦労したけど。


頑張ったんだから。


「超仲いいし」


あたしがどれくらい頑張って、補欠との距離を縮めたのか、分かってんの?


始めは掴みどころがなくて、苦労したんだから。


これでも、すごく勇気使ったんだから。


「そうなんだ。じゃあ、翠ちゃんにお願いしちゃおっかな」


と屈託のない笑顔で、涼子さんは無邪気に言った。


「お願い?」


あたしが聞くと、うん、と涼子さんはスカートのポケットに手を突っ込んだ。


「これ」


すっと差し出されたのは、几帳面にふたつに折り畳まれた白い紙だった。


「夏井くんに、渡してもらえないかな」


その何も疑いのない無邪気な目の輝きといったら。


あたしはその紙をちらりと横目で流して、聞いた。


「何? これ」


「私のアドレス。渡してもらえないかな。翠ちゃん、夏井くんと仲良しなんでしょ?」


「アドレス?」


ムカッとした直後、心臓がギシギシ鈍い音で泣いた。


心臓がバクバクした。



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