夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
岩瀬涼子。


この、お涼(おりょう)め。


何を言ってるんだ。


「無理! てか、ダメ!」


即答したあたしをおどけた顔で見て、涼子さんはその手をすっと引っ込めた。


「え……」


ダメに決まってんじゃん。


「だって、ズルいよ!」


その手段を、あたしも使うことができていたら、どんなに楽だったか。


掴みどころのない補欠とアドレス交換するために、どれくらいの勇気を使ったと思ってんの。


アドレス交換しよう。


そのたった一言を口にするために、あたしがどれくらい緊張したか分かってんのか。


手に汗握って、補欠に言ったのに。


断られるかもしれないって、実は手が震えたってのに。


それを、この人は簡単に手に入れようとしてる。


あたしはあの瞬間、泣きそうになりながら、補欠に話し掛けたのに。


ずるいよ、お涼。


「あ……ごめん」


はらり……と桜の花びらが空を切り舞い散るように、涼子さんがぽつりと言った。


「図々しいよね。ごめんなさい」


図々しいとは思わない。


だけど……ずるいとは思う。


異様な空気を漂わせたあたしと涼子さんを取り繕うように、光貴が割って入ってきた。


「まっ……まあまあ。翠、何そんなに興奮してるんだよ」


何って!


「んだって!」


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